「デジタル刑事訴訟法改正法案」の課題を指摘~参議院法務委員会~
4月24日、参議院法務委員会において、刑事訴訟法の一部を改正する法律案、いわゆる「デジタル刑事訴訟法改正法案」について、法務大臣および政府参考人に対し質疑を行いました。
本法案は、これまで原則として紙や対面を前提としてきた刑事手続を、ICTを活用してデジタル化し、裁判の迅速化と効率化、そして関係者の負担軽減を図ることを目的としています。複雑化・高度化する裁判を限られた人員で適切に運用していくためにも、こうしたデジタル化の方向性は時代の要請に沿ったものであり、基本的には賛成の立場です。
しかしながら、これまでの政府答弁を踏まえると、従来のアナログな制度運用を前提に、そこへデジタル化を「付け加える」ような姿勢が見受けられます。その結果、紙と電子の「二重管理」状態となり、かえって業務の煩雑化や非効率を招きかねない懸念があります。たとえば、従来の慣行に引きずられたままでは、真に合理的なデジタル化とは言えず、制度の移行スケジュールや必要な予算措置も含め、戦略的に取り組む姿勢が問われます。
特に取り上げたのは、裁判記録や証拠資料など電磁的記録(電子データ)の閲覧・謄写の扱いについてです。現行法では、証拠物の毀損を防ぐ観点から、裁判長の許可を得て閲覧・謄写を行う仕組みとなっていますが、改正法でも電子データに同様の扱いを適用し、閲覧・謄写には引き続き裁判長の許可が必要とされています。
この点について、情報流出やプライバシー侵害のリスクを懸念する政府側の説明は理解するものの、裁判の迅速化や費用削減を掲げる法案の趣旨と整合しない面があると指摘しました。実際、紙媒体による証拠の謄写では、数十万枚のコピーに数百万円単位の費用が発生するケースもあり、経済的負担の軽減を図るためにも、オンラインでの閲覧・謄写を原則とすべきです。現行法の枠組みにとらわれすぎることで、デジタル化の利点が発揮されなくなるおそれがあります。
また、閲覧・謄写に際し、毎回裁判所の許可を要する運用が続けば、実務上の手続きが煩雑になり、かえって刑事手続の遅延を招く可能性がある点も指摘しました。
これに対し政府参考人は、実務上は性犯罪関連など一部の例外を除き、原則としてオンラインによる複写を認める方向で制度設計を進めていると答弁しました。弁護人への証拠開示についても、検察官から原則オンラインで提供する方針であることが示され、一定の前進が確認できました。

さらに、電磁的記録提供命令における「記録」「移転」という用語が国民にとって分かりにくい点を取り上げました。「記録」は元のデータを保持したまま複写を行うもの、「移転」は元の媒体からの削除を伴う提供を意味するとされていますが、この定義が法律上明確に示されておらず、理解しづらい構造になっています。たとえば、通信事業者からの情報提供において「移転」が求められるケースは現実的にはほとんどなく、用語の整理と運用指針の明確化が必要です。
また、現在の刑事訴訟法の構造自体が、国民にとって極めて分かりにくいという点にも言及しました。専門的な法律用語や複雑な条文構成が、制度の透明性や国民の理解を妨げている現状を踏まえ、法制度の体系そのものを現代に即した形に再構築すべきであると提起しました。条文の読み替えによって分かりやすくなったという声も複数届いており、改正の機会を捉えて、より開かれた刑事司法制度にしていく必要があります。
今後の質疑では、通信傍受法との整合性や、第三者からの電磁的記録提供におけるプライバシー保護の在り方などについても引き続き確認し、実効性のある制度運用と国民目線での法整備の両立を目指してまいります。