デジタル刑事訴訟法案をめぐる参考人質疑~参議院法務委員会~
5月8日、参議院法務委員会において、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(いわゆるデジタル刑事訴訟法案)に関する参考人質疑が行われました。電磁的記録提供命令や秘密保持命令の新設など、刑事手続のデジタル化を進める本法案について、有識者の皆様から制度の課題や運用上の懸念について意見を伺いました。

渕野参考人には、電磁的記録提供命令において、提供対象となる情報をどのように厳格に限定できるかという点について意見を求めました。
渕野氏は「厳格に特定をするということは非常に難しい」と述べ、「被疑事実に関連しない情報をなるべく収集しないという運用を目指す必要がある」と指摘。そのうえで、「捜査機関は令状請求時に、提供対象となる電磁的記録について具体的な根拠を疎明資料で示すべきであり、それが抽象的である場合は、裁判所が令状請求を却下すべき」との見解を示しました。

成瀬参考人には、秘密保持命令の解除の仕組みに対する考え方を伺いました。
成瀬氏は、「裁判官が命令を発する際には一年以内の期間を定め、これを経過すれば効力は自動的に失われる」、また「捜査機関が秘密保持の必要がなくなったと判断した場合には速やかに取り消す義務があり、被処分者からの取消請求も認められる」と述べたうえで、「取消請求に応じなかった場合には、裁判所に不服申立ても可能である」として、複層的な手続が制度として設けられていると説明されました。
成瀬参考人の説明を踏まえたうえで、情報主体が命令の存在を知らない間は、不服申立てができないという問題があると指摘し、改めて成瀬氏の見解を伺いました。
成瀬氏は「秘密保持命令が発令されていない場合には、契約上の義務により、事業者が情報主体に通知を行うケースもある」「命令が解除された後は通知が行われ、その時点で情報主体が不服申立てを行うことは可能」と述べました。
意見交換を通じて、秘密保持命令が解除されるまで、情報主体による不服申立てが現実的に行えないという制度上の限界が明らかになりました。

河津参考人は、冒頭の意見陳述で証拠を「ありのままに保管する」ことの重要性について語り、保管されていた情報のうち、本来開示されるべき記録が開示されなかった結果、裁判所の判断が左右された可能性のある事例があったと紹介されました。こうした事態を防ぐためには、証拠をありのまま適切に保管するために、どのような対応や制度が必要であると考えるか意見を伺いました。
河津氏は、「捜査機関が取得した電磁的記録は、すべて証拠として取り扱い、適切に管理しなければならない」「開示の要件を満たすものは、適正に開示されるべき」と主張。また、「電磁的記録の消去は捜査機関の裁量に委ねるのではなく、裁判所が違法と判断した場合に限定すべき」「その適正な運用を担保するため、独立した監督機関の設置も検討すべき」との意見が示されました。
成瀬参考人へ同様の証拠管理の在り方について見解を伺いました。
成瀬氏は「現行の制度では、警察が収集した証拠は検察に送致され、起訴後に開示される仕組みがある」、「今後は提供命令に基づくデータの管理対象が増えることから、警察や検察の内部規則を見直し、より適正な証拠管理が求められる」と述べたうえで、「中長期的には、証拠保管の方法や期間、開示手続の基準を含め、刑事訴訟法全体の在り方を見直していくことが必要」との提言がされました。