刑法等の一部を改正する法律案に関して参考人へ質疑~参議院法務委員会~
6月7日、法務委員会において刑法等の一部を改正する法律案に対し、3名の参考人の方からご意見を伺い、その後、質疑を行いました。
参考人:今井法政大学大学院法務研究科教授、山田専修大学文学部ジャーナリズム学科教授、石塚龍谷大学法学部教授

3名の参考人の方に表現の自由は憲法で保障された大切な国民の権利であるが、他方、他人の利益や権利との関係から制約が存在している。憲法13条の公益の福祉による制限を受けるとするのが表現の自由に関する通説である。この表現の自由と憲法13条が定める公共の福祉との関係をどのように捉えているか問いました。
今井参考人は「無責任な発言は刑事でも民事でも違法であるというのが最高裁の判例であり、大変優れた判断基準が示され整理されている」と語りました。
山田参考人は「基本的には表現の自由で限定して言うならば、表現の自由を制約するときに、公共の福祉という大きな考え方で一まとめにして制約するのではなく、可能な限りケースバイケースで議論し、その中で比較考量して行くことが今日的な考えであると理解している」と語りました。
石塚参考人は「表現自由は基本的に無制限に保障されるべきだと思う。ただし、言った以上は自分の言ったことに責任を取るという社会が望ましいと思う。刑事の問題や民事の問題に対して国は関わらないで、第一義的には、個人の間の紛争として、侵害を受けたと主張する側と侵害を加えたといわれる側との間で、いかに調整していくかを考えるべきと思う」と語りました。

石塚参考人へ「無制限に表現の自由を守らなければならない」との発言ついて、場合には発言した人間、表現した人間自体がそのことに対する結果責任を負うことを考えたときに、今回の刑法改正による量刑の重罰化についてどのように考えるかを問いました。
石塚参考人は「効かないと思う。懲役または禁錮を1年以下に引き上げてもやめる人はいない。彼らにとっては、大騒ぎをしないで淡々と物事が解決されていくことが一番効くと思う。ただし、今の社会の中でどのようにシステムを作っていくかは、私たちに与えられた大きな課題だと思う」と語りました。

山田参考人へ「批判と誹謗中傷」の違いを問いました。
山参考人は「強者から弱者、弱者から強者の違いと考えるのが一番分かり易いと思っている。日本の憲法体系は表現の自由に関して、戦争の深い反省から、一切のただし書きを付けていない。これは世界の中でも珍しい。しかも第二項で検閲と、通信の秘密を保障しているが、これは日本しかない。きわめて表現の自由を大切にすることを民主主義の根幹においている国として、曖昧な定義で表現を制約していくことの問題性について、今一度、慎重な審議を願いたい」と語りました。
山田参考人の「強者から弱者、弱者から強者」との発言について、「何が強者で何が弱者」なのかという概念自体が、SNSが発達したことで変わってきていると思う。従来、組織と個人との間では組織のほうが強いと捉えていたが、SNSが発達したことで個人が世界全体に対して瞬時に情報発信し、問題提起を行うことができる時代になった。この時代の変化において強者と弱者という捉え方だけでSNSで誹謗中傷だとか、侮辱だとかということについて、なかなか整理しきれないと考える。そのような中、従来であれば一言ものをいうのであれば一回って終わってしまい、侮辱的表現も一回で終わる。しかし、ネットにいったん載って気軽にリツイートされ拡散されることで、一回が千回にも一万回にも、繰り返し侮辱がされる実態がある。インターネット社会における侮辱に対する対応の在り方を考えないといけないが、この点についてどのように捉えているかを問いました。
山田参考人は、「世の中には様々な行き過ぎた表現があることは事実。表現の自由と自由な表現を履き違えがあることも事実。一方で新しいインターネットの技術も含めて対応が進んでいる中で、一足飛びに法規制ですべてを無しにしてしまうことがいいのかについては、慎重な審議を願いたい。今回の侮辱罪の法改正が、即効薬になりえないし、使い勝手が悪いという声も上がっている。むしろ小さなメリットにもかかわらず大きなデメリットがある法案改正であることを改めて指摘する」と語りました。

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