「民法改正法案」賛成討論~参議院本会議~
5月17日、参議院本会議で共同親権および法定養育費の導入等に向けた民法改正案に対し賛成の立場で討論を行いました。
日本人と外国人の国際結婚が急増したことによって国際離婚も増加し、一方の親がもう一方の親の同意を得ることなく、子どもを自分の母国へ連れ出す「子どもの連れ去り」が問題になっています。欧米諸国では、例え実の親であっても、他方の親の同意を得ずに子の居所を移動させることは、子を誘拐する行為として重大な犯罪とされており、実際に、配偶者に無断で子を連れて日本に帰国した親が「誘拐」又は「拉致」したとして、逮捕状が出される事例が多発しています。
日本は、2014年4月にハーグ条約を締結したため、締約国として年々増加する日本人による子どもの連れ去り等への対応を求められています。
今次改正法案は、こうした国際情勢を踏まえて提出された改正案であることを改めて述べた上で、法の施行までの間に次の点について整備・検討等を行うよう政府に求めました。
① 改正案では、「婚姻の有無にかかわらず、子の利益のため、互いの人格を尊重し協力しなければならない」との父母の責務が明記されましたが、父母による子の養育を互いの人格を尊重し協力しつつ適切に進めるためには、一方当事者に過度の負担が生じないよう配慮し、離婚前後の子の養育に関する講座の受講や共同養育計画の作成を促進するための事業への支援、ADRの利便性向上に向けた措置を講じる必要があることから、関係省庁や地方自治体とも連携の上、速やかに必要な施策を検討・実施すること。
② 今後法務省は、養育費の受給や親子交流が適切に実施されるよう国内における実情調査を継続的に行うほか、諸外国における運用状況に関する調査研究を踏まえて、適正な養育費水準および日本における親子交流の在り方、「監護の分掌」の実施に伴う養育費負担の在り方等についての検討を行い、必要な措置を講じること。
③ 親子交流の推進を図るために民間任せにするのではなく、国が予算を付けて実績のある団体に業務委託するなど、適切な親子交流を推進にする上での体制整備が必要であること。
④ 共同親権を巡る裁判所の裁定に対して不安の声が上がっている中、適正な裁判を行う上で裁判官及び裁判所職員の人員体制の整備が急務であること。
⑤ 「子ども基本法」を公益性の高い社会法と位置付けることにより、フランスなどと同様に、裁判所が裁定した養育費や親子交流といった子どもの権利を侵害する行為に対して、公法上の制裁規定を適用することについて検討の余地があるとこと。
⑥ 今回の民法改正は、子どもの最善の利益を守ることに主眼を置いて離婚後親権のあり方を議論してきた。離婚判決が共同生活の解消を目的としている以上、財産分与や養育・監護の解決を判決の前提とするような制度の導入を検討することが必要。
本法案は国民民主党をはじめ賛成多数で成立しました。
【賛成討論の全文は以下を参照】
国民民主党・新緑風会の川合孝典です。会派を代表し、民法等の一部を改正する法律案に賛成の立場から討論します。
日本人と外国人の国際結婚が急増したことによって国際離婚も増加し、一方の親がもう一方の親の同意を得ることなく、子どもを自分の母国へ連れ出す「子どもの連れ去り」が問題になっています。欧米諸国では、例え実の親であっても、他方の親の同意を得ずに子の居所を移動させることは、子を誘拐する行為として重大な犯罪とされており、実際に、配偶者に無断で子を連れて日本に帰国した親が「誘拐」又は「拉致」したとして、逮捕状が出される事例が多発しています。
日本は、2014年4月にハーグ条約を締結したため、締約国として年々増加する日本人による子どもの連れ去り等への対応を求められています。
今次改正法案は、こうした国際情勢を踏まえて提出されています。
今回の民法改正に対して深刻な家庭内暴力を恐れるひとり親からは、法改正後の家庭裁判所の判断を含む、具体的な運用を巡って不安の声が上がっています。
法改正により家庭内暴力や児童虐待が深刻化するような事態は、決して生じさせないよう細心の注意を払った法運用が求められていることは言うまでもありません。
今回の民法改正では、「婚姻の有無にかかわらず、子の利益のため、互いの人格を尊重し協力しなければならない」との父母の責務が明記されました。
しかし父母による子の養育を互いの人格を尊重し協力しつつ適切に進めるためには、一方当事者に過度の負担が生じないよう配慮しつつ、離婚前後の子の養育に関する講座の受講や共同養育計画の作成を促進するための事業に対する支援、ADRの利便性向上に向けた措置を講じる必要があります。関係省庁や地方自治体とも連携の上、速やかに必要な施策を検討・実施することを強く求めます。
近年、子どもの引き渡しを求めて家庭裁判所に調停や審判を申し立てる事例が増えていますが、この10年間で父親の申し立てが7割増えて、父親の申し立て件数が、母親を上回る状況が続いています。その背景には、父親が外で仕事をして、母親が家事・育児を行う、という旧来の家族の在り方が、夫婦共稼ぎで父親も育児を担うようになったことで、子どもと父親との関係性が変化したことにある、と指摘されています。
伝統的な家族観が大きく変化する中、改正民法が定める「子の利益を守るための父母の責務」を理解し、離婚しても父母が子のために協力しあうことが当たり前となる環境を整えるための取り組みが求められています。
私が、法案審議を通じて一貫して訴え続けてきたのが子どもの最善の利益の確保です。
様々な事情があるとはいえ、両親の事情による離婚の結果、子どもが不利益を被る状況だけは、絶対に避けなければなりません。
2022年度の母子世帯のひとり親家庭の子どもの貧困率は、OECD加盟36か国中、35位の48.3%、実にふたりにひとりが貧困状況におかれています。
厚生労働省が2022年12月に公表した調査データによると、ひとり親世帯の平均就労年収は父子家庭で420万円、母子家庭では243万円となっており、ひとり親の母子家庭が厳しい経済状況に置かれていることがわかります。
また離婚後、養育費を受け取っていないひとり親世帯は、全体の56.9%となっており、このことが、特にひとり親の母子家庭の子どもの貧困率が高くなる要因となっています。
その結果、子どもの大学進学率や、習い事やクラブ活動への参加率などで、教育格差や体験格差が拡大しています。
現実に両親の離婚が、子どもの将来に深刻な影響を及ぼしている、ということを我々は重く認識する必要があります。
今次法改正によって、離婚時に養育費の取り決めをしていなくても「子の最低限の生活」に必要な養育費額の請求が可能となる仕組みが導入されます。また、これまで裁判所に差し押さえの申し立てを行う際に必要とされた調停の書面や公正証書がなくても私文書でも差し押さえの申し立てが可能となったことにより、特にひとり親の母子家庭の子どもの貧困率の改善に寄与することが期待されます。
また近年、調停の申し立てが増加している親子交流にも変化が期待されます。
親子交流は子どもの成長にとって重要とされているものの、実際には親子交流が実施されていない事例は数多くあります。今後、子に対する父母の責務規定に基づき、子の意思を尊重した面会交流の場を設定できれば子どもの利益に資することが期待できます。
今後法務省には、養育費の受給や親子交流が適切に実施されるよう国内における実情調査を継続的に行うほか、諸外国における運用状況に関する調査研究を踏まえて、適正な養育費水準および日本における親子交流の在り方、「監護の分掌」の実施に伴う養育費負担の在り方等についての検討を行い、必要な措置を講じることを求めます。
今次法改正により大きく運用が変更される可能性のある親子交流については、その推進を図る上での国の体制が明らかに貧弱です。法務省ホームページによると親子交流を支援する団体は全国でわずか57団体に過ぎず、公的補助も乏しいことから、活動の多くをボランティアが支えています。
民間任せにするのではなく、国が予算を付けて実績のある団体に業務委託するなど、適切な親子交流を推進にする上での体制整備が必要であることを指摘します。
また、裁判所の体制整備が急務であることも審議を通じて明らかになっています。
法改正によって家庭裁判所の業務負担は増大することが見通されます。DV・虐待事案への対応を含む多様な問題に対する判断が求められることに伴い、裁判官・家事調停官・家庭裁判所調査官等、裁判所職員の増員及び専門性の向上が必要となるほか、裁判所内の調停室や児童室等の設備の整備、申し立てや会議のIT化による裁判手続きの利便性の向上、子どもが安心して意見陳述を行うことができる環境の整備など、法施行までの間に取り組むべき課題は山積しています。
なお裁判所は、慢性的な裁判官不足の状態におかれています。判事になるまで10年間任官する必要のある判事補は減少の一途を辿っており現在約2割の欠員となっています。
裁判官不足のため、地方裁判所の203支部のうち44支部には裁判官が常駐していません。裁判官の常駐していない支部では、月に数回担当裁判官がやってきて溜まった案件を纏めて処理することになるため、落ち着いた審理が出来ないことから、訴訟当事者からの不満の原因にもなっています。
共同親権を巡る裁判所の裁定に対して不安の声が上がっている中、適正な裁判を行う上で裁判官及び裁判所職員の人員体制の整備が急務であることを指摘します。
家事裁判の裁定の実効性を高めるための施策について述べます。
現行法下では、必ずしも裁判所の裁定が順守されていない事案が散見されることから、その実効性を高めるための措置が必要です。
一般的に、国民と国家との関係を規律付ける「公法」と私的活動を規定する「私法」では、その基本原理が異なることから、私法である民法違反に対して公法である刑法等の制裁規定は馴染まないものとされています。
しかし一昨年、子どもの最善の権利を守ることを目的とした「子ども基本法」が成立しました。既に労働基準法や独占禁止法のように公益上の理由で市民相互の関係を規律付ける、いわゆる社会法と言われる、公法と私法との中間的な性格を有する法律には、刑法上の制裁規定が設けられています。
私は、「子ども基本法」を公益性の高い社会法と位置付けることにより、フランスなどと同様に、裁判所が裁定した養育費や親子交流といった子どもの権利を侵害する行為に対して、公法上の制裁規定を適用することについて検討の余地があると考えており、そのことを指摘します。
最後に、現行離婚制度の本質的な課題について指摘します。
我が国の離婚制度の最大の欠陥は、離婚判決と財産分与や養育・監護の問題が、制度上別立てになっていることです。これは、社会的・経済的弱者を保護する見地からは見過ごせない問題です。
今回の民法改正は、子どもの最善の利益を守ることに主眼を置いて離婚後親権のあり方を議論してきました。離婚判決が共同生活の解消を目的としている以上、財産分与や養育・監護の解決を判決の前提とするような制度の導入を検討することが必要である、という点を指摘して討論を終わります。
日本人と外国人の国際結婚が急増したことによって国際離婚も増加し、一方の親がもう一方の親の同意を得ることなく、子どもを自分の母国へ連れ出す「子どもの連れ去り」が問題になっています。欧米諸国では、例え実の親であっても、他方の親の同意を得ずに子の居所を移動させることは、子を誘拐する行為として重大な犯罪とされており、実際に、配偶者に無断で子を連れて日本に帰国した親が「誘拐」又は「拉致」したとして、逮捕状が出される事例が多発しています。
日本は、2014年4月にハーグ条約を締結したため、締約国として年々増加する日本人による子どもの連れ去り等への対応を求められています。
今次改正法案は、こうした国際情勢を踏まえて提出された改正案であることを改めて述べた上で、法の施行までの間に次の点について整備・検討等を行うよう政府に求めました。
① 改正案では、「婚姻の有無にかかわらず、子の利益のため、互いの人格を尊重し協力しなければならない」との父母の責務が明記されましたが、父母による子の養育を互いの人格を尊重し協力しつつ適切に進めるためには、一方当事者に過度の負担が生じないよう配慮し、離婚前後の子の養育に関する講座の受講や共同養育計画の作成を促進するための事業への支援、ADRの利便性向上に向けた措置を講じる必要があることから、関係省庁や地方自治体とも連携の上、速やかに必要な施策を検討・実施すること。
② 今後法務省は、養育費の受給や親子交流が適切に実施されるよう国内における実情調査を継続的に行うほか、諸外国における運用状況に関する調査研究を踏まえて、適正な養育費水準および日本における親子交流の在り方、「監護の分掌」の実施に伴う養育費負担の在り方等についての検討を行い、必要な措置を講じること。
③ 親子交流の推進を図るために民間任せにするのではなく、国が予算を付けて実績のある団体に業務委託するなど、適切な親子交流を推進にする上での体制整備が必要であること。
④ 共同親権を巡る裁判所の裁定に対して不安の声が上がっている中、適正な裁判を行う上で裁判官及び裁判所職員の人員体制の整備が急務であること。
⑤ 「子ども基本法」を公益性の高い社会法と位置付けることにより、フランスなどと同様に、裁判所が裁定した養育費や親子交流といった子どもの権利を侵害する行為に対して、公法上の制裁規定を適用することについて検討の余地があるとこと。
⑥ 今回の民法改正は、子どもの最善の利益を守ることに主眼を置いて離婚後親権のあり方を議論してきた。離婚判決が共同生活の解消を目的としている以上、財産分与や養育・監護の解決を判決の前提とするような制度の導入を検討することが必要。
本法案は国民民主党をはじめ賛成多数で成立しました。
【賛成討論の全文は以下を参照】
国民民主党・新緑風会の川合孝典です。会派を代表し、民法等の一部を改正する法律案に賛成の立場から討論します。
日本人と外国人の国際結婚が急増したことによって国際離婚も増加し、一方の親がもう一方の親の同意を得ることなく、子どもを自分の母国へ連れ出す「子どもの連れ去り」が問題になっています。欧米諸国では、例え実の親であっても、他方の親の同意を得ずに子の居所を移動させることは、子を誘拐する行為として重大な犯罪とされており、実際に、配偶者に無断で子を連れて日本に帰国した親が「誘拐」又は「拉致」したとして、逮捕状が出される事例が多発しています。
日本は、2014年4月にハーグ条約を締結したため、締約国として年々増加する日本人による子どもの連れ去り等への対応を求められています。
今次改正法案は、こうした国際情勢を踏まえて提出されています。
今回の民法改正に対して深刻な家庭内暴力を恐れるひとり親からは、法改正後の家庭裁判所の判断を含む、具体的な運用を巡って不安の声が上がっています。
法改正により家庭内暴力や児童虐待が深刻化するような事態は、決して生じさせないよう細心の注意を払った法運用が求められていることは言うまでもありません。
今回の民法改正では、「婚姻の有無にかかわらず、子の利益のため、互いの人格を尊重し協力しなければならない」との父母の責務が明記されました。
しかし父母による子の養育を互いの人格を尊重し協力しつつ適切に進めるためには、一方当事者に過度の負担が生じないよう配慮しつつ、離婚前後の子の養育に関する講座の受講や共同養育計画の作成を促進するための事業に対する支援、ADRの利便性向上に向けた措置を講じる必要があります。関係省庁や地方自治体とも連携の上、速やかに必要な施策を検討・実施することを強く求めます。
近年、子どもの引き渡しを求めて家庭裁判所に調停や審判を申し立てる事例が増えていますが、この10年間で父親の申し立てが7割増えて、父親の申し立て件数が、母親を上回る状況が続いています。その背景には、父親が外で仕事をして、母親が家事・育児を行う、という旧来の家族の在り方が、夫婦共稼ぎで父親も育児を担うようになったことで、子どもと父親との関係性が変化したことにある、と指摘されています。
伝統的な家族観が大きく変化する中、改正民法が定める「子の利益を守るための父母の責務」を理解し、離婚しても父母が子のために協力しあうことが当たり前となる環境を整えるための取り組みが求められています。
私が、法案審議を通じて一貫して訴え続けてきたのが子どもの最善の利益の確保です。
様々な事情があるとはいえ、両親の事情による離婚の結果、子どもが不利益を被る状況だけは、絶対に避けなければなりません。
2022年度の母子世帯のひとり親家庭の子どもの貧困率は、OECD加盟36か国中、35位の48.3%、実にふたりにひとりが貧困状況におかれています。
厚生労働省が2022年12月に公表した調査データによると、ひとり親世帯の平均就労年収は父子家庭で420万円、母子家庭では243万円となっており、ひとり親の母子家庭が厳しい経済状況に置かれていることがわかります。
また離婚後、養育費を受け取っていないひとり親世帯は、全体の56.9%となっており、このことが、特にひとり親の母子家庭の子どもの貧困率が高くなる要因となっています。
その結果、子どもの大学進学率や、習い事やクラブ活動への参加率などで、教育格差や体験格差が拡大しています。
現実に両親の離婚が、子どもの将来に深刻な影響を及ぼしている、ということを我々は重く認識する必要があります。
今次法改正によって、離婚時に養育費の取り決めをしていなくても「子の最低限の生活」に必要な養育費額の請求が可能となる仕組みが導入されます。また、これまで裁判所に差し押さえの申し立てを行う際に必要とされた調停の書面や公正証書がなくても私文書でも差し押さえの申し立てが可能となったことにより、特にひとり親の母子家庭の子どもの貧困率の改善に寄与することが期待されます。
また近年、調停の申し立てが増加している親子交流にも変化が期待されます。
親子交流は子どもの成長にとって重要とされているものの、実際には親子交流が実施されていない事例は数多くあります。今後、子に対する父母の責務規定に基づき、子の意思を尊重した面会交流の場を設定できれば子どもの利益に資することが期待できます。
今後法務省には、養育費の受給や親子交流が適切に実施されるよう国内における実情調査を継続的に行うほか、諸外国における運用状況に関する調査研究を踏まえて、適正な養育費水準および日本における親子交流の在り方、「監護の分掌」の実施に伴う養育費負担の在り方等についての検討を行い、必要な措置を講じることを求めます。
今次法改正により大きく運用が変更される可能性のある親子交流については、その推進を図る上での国の体制が明らかに貧弱です。法務省ホームページによると親子交流を支援する団体は全国でわずか57団体に過ぎず、公的補助も乏しいことから、活動の多くをボランティアが支えています。
民間任せにするのではなく、国が予算を付けて実績のある団体に業務委託するなど、適切な親子交流を推進にする上での体制整備が必要であることを指摘します。
また、裁判所の体制整備が急務であることも審議を通じて明らかになっています。
法改正によって家庭裁判所の業務負担は増大することが見通されます。DV・虐待事案への対応を含む多様な問題に対する判断が求められることに伴い、裁判官・家事調停官・家庭裁判所調査官等、裁判所職員の増員及び専門性の向上が必要となるほか、裁判所内の調停室や児童室等の設備の整備、申し立てや会議のIT化による裁判手続きの利便性の向上、子どもが安心して意見陳述を行うことができる環境の整備など、法施行までの間に取り組むべき課題は山積しています。
なお裁判所は、慢性的な裁判官不足の状態におかれています。判事になるまで10年間任官する必要のある判事補は減少の一途を辿っており現在約2割の欠員となっています。
裁判官不足のため、地方裁判所の203支部のうち44支部には裁判官が常駐していません。裁判官の常駐していない支部では、月に数回担当裁判官がやってきて溜まった案件を纏めて処理することになるため、落ち着いた審理が出来ないことから、訴訟当事者からの不満の原因にもなっています。
共同親権を巡る裁判所の裁定に対して不安の声が上がっている中、適正な裁判を行う上で裁判官及び裁判所職員の人員体制の整備が急務であることを指摘します。
家事裁判の裁定の実効性を高めるための施策について述べます。
現行法下では、必ずしも裁判所の裁定が順守されていない事案が散見されることから、その実効性を高めるための措置が必要です。
一般的に、国民と国家との関係を規律付ける「公法」と私的活動を規定する「私法」では、その基本原理が異なることから、私法である民法違反に対して公法である刑法等の制裁規定は馴染まないものとされています。
しかし一昨年、子どもの最善の権利を守ることを目的とした「子ども基本法」が成立しました。既に労働基準法や独占禁止法のように公益上の理由で市民相互の関係を規律付ける、いわゆる社会法と言われる、公法と私法との中間的な性格を有する法律には、刑法上の制裁規定が設けられています。
私は、「子ども基本法」を公益性の高い社会法と位置付けることにより、フランスなどと同様に、裁判所が裁定した養育費や親子交流といった子どもの権利を侵害する行為に対して、公法上の制裁規定を適用することについて検討の余地があると考えており、そのことを指摘します。
最後に、現行離婚制度の本質的な課題について指摘します。
我が国の離婚制度の最大の欠陥は、離婚判決と財産分与や養育・監護の問題が、制度上別立てになっていることです。これは、社会的・経済的弱者を保護する見地からは見過ごせない問題です。
今回の民法改正は、子どもの最善の利益を守ることに主眼を置いて離婚後親権のあり方を議論してきました。離婚判決が共同生活の解消を目的としている以上、財産分与や養育・監護の解決を判決の前提とするような制度の導入を検討することが必要である、という点を指摘して討論を終わります。