黙秘権の整理や証拠閲覧環境の整備を政府に質す~参議院法務委員会~
5月15日の参議院法務委員会において、いわゆるデジタル刑事訴訟法改正案に関連し、黙秘権の意義や刑事施設における電子証拠の閲覧環境の整備、情報提供命令における通知や費用負担のあり方など、制度運用上の課題を指摘し、政府の見解等を問いました。

憲法第38条に規定される自己負罪拒否特権(自分に不利益な供述を強要されない権利)と、それを受けて刑事訴訟法上に定められている黙秘権の関係について確認を求めたところ、政府参考人からは「黙秘権の方が広い」との答弁がありました。これは、自己負罪拒否特権があくまで不利益な供述を拒む権利であるのに対し、黙秘権は不利益かどうかにかかわらず供述自体を拒むことができるためです。法的概念の整理が不十分なままでは、制度の運用における拡大解釈の余地が生じ、法改正に対する国民の不安や懸念の一因となりかねないことを指摘しました。

刑事施設内における電子化された証拠の閲覧環境の整備について取り上げ、現状では弁護人と拘束中の被疑者・被告人との間で、電子的な情報のやり取りが円滑に行えない実態を指摘しました。電子データを用いた証拠開示が進む一方で、拘置所や警察署などの施設内ではタブレット端末や記録媒体の使用に厳しい制限があるため、結果としてアナログとデジタルが混在し、迅速な弁護活動が妨げられるおそれがあることを指摘し、法務大臣の認識を問いました。
法務大臣は、「証拠媒体の使用が施設の秩序や安全を損なうおそれがある場合には個別に判断する」との従来の見解が示されつつ、「防御権(自分の身を守るための権利)に十分配慮した対応を進める」との姿勢を示しました。
この答弁に対し、「できるところから対応する」という方針では、全体としての制度整備が後手に回る懸念があることを訴え、明確なスケジュールと責任体制の構築を求めました。
また、オンライン接見の拡充についても提起し、特に地方の刑事施設では遠方からの弁護士による訪問接見が困難な実情がある中で、接見室にパソコンを設置し、アクセスポイント方式を活用すれば、過度な予算をかけることなく安全な環境での実施が可能であり、防御権の実効性を高める有効な手段となることを指摘しました。政府参考人からも、「接見室でのオンライン接見には比較的自傷他害の懸念は少ない」との答弁があり、今後の運用改善に向けた具体的検討を促しました。

電磁的記録提供命令に関しては、情報提供事業者に新たな対応義務やコストが発生するにもかかわらず、欧米諸国のような費用弁償制度が日本には存在しない点について、規模を問わず多くの事業者に実務上の負担が生じるおそれがあると指摘し、政府の見解を問いました。政府参考人からは、「情報提供事業者の負担軽減に向け、引き続き協議を重ねていく」と応じました。

※本法案は5月16日、国民民主党をはじめ賛成多数で成立しました。