労働時間規制・賃上げ・価格転嫁について総理に質疑 ~参議院予算委員会~
2025年11月14日の参議院予算委員会で、「労働時間規制の緩和」「持続的な賃上げ」「価格転嫁の徹底」について、総理および関係閣僚に質疑を行いました。現場の実態とデータを踏まえ、働き方改革の理念、賃上げの持続性、価格転嫁の実効性について政府の認識と具体策を問い質しました。

〇労働時間規制の緩和に対する総理の基本認識を問う
政府が検討を進める労働時間規制の緩和について、総理の認識を確認しました。
私は、2018年から2019年にかけて安倍総理(当時)と直接働き方改革の議論を重ね、法改正に携わってきた立場として、当時の改革が「働く人の健康確保」と「長時間労働の是正」を柱として進められてきた経緯を踏まえたうえで、高市総理が「働きたい人が働けるようにすべきだ」と発言されたことに強い違和感を覚えると述べました。本来、働き方改革は長時間労働を減らし、ワーク・ライフ・バランスを改善するための制度整備であったにもかかわらず、「もっと働ける環境づくり」という方向性だけが前面に出ると、改革の理念が損なわれかねないと指摘しました。
労働時間規制の見直しを検討するのであれば、働き方改革関連法が掲げた理念や目的を改めて確認し、それらが現場で実際に機能しているかを丁寧に検証したうえで議論を進めるべきだと述べ、総理の見解を求めました。
総理は、「働き方改革推進法の施行から5年以上が経過し、審議会で働き方の実態やニーズに基づいた議論が行われている。残業抑制が強く働き、副業に流れるケースもある」と答弁しました。
総理の答弁を受けて、脳・心臓疾患による労災認定は増加傾向にあり、精神障害の認定件数も1,000件を超える状況が続いている。特に医療・福祉現場で深刻化している実態を踏まえ、現時点で必要なのは労働時間規制の緩和ではなく、「残業をしなければ生活できない賃金構造」の改善であり、働く人が健康を損なわずに生活を維持できる環境を整えることであると訴え、働き方改革の本来の目的に立ち返った慎重な議論を重ねることを強く求めました。

〇持続的な賃上げの実現に向けて
持続的な賃上げをどのように実現していくのか、総理の認識を確認しました。
政府は骨太方針2025で「物価上昇を上回る賃上げ」を掲げていますが、直近3年間は実質賃金がマイナス傾向で推移しており、名目賃金が30数年ぶりの高い伸びを実現しても物価上昇に追いつかない状況が続いています。こうした状況が個人消費を抑制し、結果的に賃上げの持続性を損ねていると指摘し、政府として実質賃金を押し上げるためにどのような具体的政策を講じるのか総理に説明を求めました。
総理は、賃上げに向けた環境整備を進める考えを示し、「重点支援地方交付金を活用した中小企業・小規模事業者への支援や、賃上げ税制を使えない赤字企業に対する地方からの補助金措置、価格転嫁対策、中小企業の稼ぐ力を強化する取り組み、省力化支援の推進などを組み合わせながら、企業が賃上げの原資を確保できる環境づくりを進めていく」と述べました。また、燃料費や電気・ガス料金の負担軽減策、さらには「官公需の請負契約において、労務単価や資材単価の引上げを確実に反映させることが重要である」と強調し、賃上げに資する環境整備に取り組むと述べました。
この答弁を受けて、利益剰余金が637兆円を超え過去最高を更新し続けている実態を踏まえ、企業規模別に見ても支払余力が高まっており、人件費が1992年以降ほぼ横ばいであること、株主配当は増加し続けていることを指摘し、企業は「原資がない」と言いながら内部留保が増え続けている現状を訴えました。また労働分配率についても、賃上げ促進税制などの政策が講じられているにもかかわらず統計開始以来の過去最低水準に落ち込んでいる点を指摘し、分配構造の改善には追加的な政策が必要と提言し、総理の認識を問いました。
総理は「企業が過度に預貯金をため込むのではなく、賃上げを含む人への投資に資金を活用してほしい。株主への還元ばかりを優先するのではなく、従業員や取引先を含めた適切な配分が行われるよう、コーポレートガバナンス・コードを改訂していく」と述べました。さらに、「賃上げの原資確保が難しい企業に対しても対応できる政策を講じ、賃上げしやすい環境を整える」とし、賃上げ促進に向けた政府の姿勢を改めて示しました。
総理の答弁に対し、総理が政調会長時代に企業の現預金課税に言及されていた点にも触れ、現預金が過度に積み上がる構造を是正し、人への投資に資金が回る仕組みを検討する余地があると伝えたうえで、賃上げ促進税制の実効性を高めるための具体的な制度設計を進めるよう求めました。

〇価格転嫁の推進に向けた取り組み
価格転嫁の推進について、政府の姿勢を確認しました。
賃上げの重要性が叫ばれる一方で、中小企業からは「賃上げしたくても原資がない」という声が多く寄せられています。こうした声の背景には、原材料費やエネルギー価格の高騰が十分に販売価格へ反映されていない現実があり、価格転嫁の遅れが中小企業の賃上げを阻む大きな要因となっています。政府において最低賃金1,500円の目標が不明確な形で議論されている現状への違和感を示しつつ、2029~2030年に向けて400円近い最低賃金の引上げを実現するためには、中小企業が収益力を高められる価格転嫁の促進が不可欠であると指摘しました。こうした課題認識を踏まえ、政府として価格転嫁の遅れに対し、どのように向き合い、具体的にどのような施策を講じるのかを総理に問いました。
総理は「中小企業庁が30万社を対象に行った調査では、コスト全体の転嫁率は52.4%にとどまっており、価格転嫁と取引適正化の徹底にはまだ後押しが必要である」としたうえで、「前国会で改正した取引適正化法と振興法の着実な執行を進め、国や自治体が発注する請負契約についても、物価上昇を踏まえた単価の適切な見直しを行う」と述べ、官民を通じて価格転嫁を強力に後押しする考えを示しました。
また経済産業大臣に対しては、年2回設定されている「価格交渉促進月間」を常時監視の仕組みに改めるべきではないかと提起し、赤澤大臣の見解を問いました。
大臣は、3月と9月を交渉促進月間として設定している理由や、月間終了後に中小企業30万社を対象に主要発注者との価格転嫁状況を調査し、結果をリストとして公表していること、調査結果が芳しくない事業者には330名体制の下請Gメンによるヒアリングを活用し指導・助言を行っていること。また、「改正された取適法や振興法の着実な執行、全国47都道府県の下請かけこみ寺での相談対応を進めることで、価格転嫁と取引適正化を徹底し、挑戦する中小企業を支える社会への転換を図りたい」と述べました。
また公正取引委員会に対し、改正取適法の実効性をいかに高めるのかを確認するとともに、お願いベースの行政指導だけでなく、罰則や課徴金制度を含む厳格な対応が有効ではないかと問題提起しました。
公取委は、取適法が簡易迅速な事件処理を主眼とし、手続義務違反には罰則を設けている一方、買いたたきなどの禁止行為は勧告と公表による対応が基本であるとしたうえで、「取適法の勧告に従わない場合には独占禁止法による排除措置命令や課徴金納付命令を行うことが可能であり、改正取適法と独禁法の役割分担のもと、執行を強化していく」と述べ、価格転嫁の推進に向けた姿勢を示しました。
これらの答弁に対し、政府がデフレ脱却と強い日本経済の実現を掲げる中で、価格転嫁の実現こそが賃上げの前提条件であると改めて強調しました。中小企業が適正な価格で取引できる環境を整えなければ賃上げは持続しません。取適法の実効性ある運用や、常時監視体制を視野に入れた価格転嫁の徹底など、実効的な仕組みを講じるよう訴えました。